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月→土勤務の外資系風バリキャリ妻と元気いっぱいの2人の息子たち。2012年度、2017年度と2回育休を取得。育児ブログです。

気持ち悪い笑顔の人でもいつかは優しくなれる話。

夏が来れば思い出す…。

7月は自分を戒め、省みさせる時期。入社したての新人時代の苦い経験がよみがえるとともに「果たして今の自分はちゃんとできているのか?」と自問自答してしまう。

 

「あなたは顔では笑っているけれど、心では笑っていないでしょ。ぎこちないのよね。失礼だけど笑顔が気持ち悪いのよね。」


飲食サービス中心の会社に勤務しているので、入社してしばらくは現場の最前線に配属される。入社して3ヶ月はビジネスマナーから接客の基礎知識、先輩に常についてもらってのOJTと毎日が研修。そして7月の夏休みシーズンになってようやく一人立ちになる。入社してすぐの配属先はとあるリゾート。夏休みシーズンがどれだけ忙しいかを毎日聞かされていたので、それまでに最低限のことができるようになっておかなければと毎日が必死だった。

休みの日もひたすら自主勉強であっという間に7月を迎える。基本的なことは任され、一人で接客する機会が増えたある日のこと。

その日のお客様を席へご案内してすぐに言われたのが冒頭の「あなたの笑顔は気持ち悪い。」という言葉。
まだ慣れていなかったので相当緊張していたのは間違いない。しかしぎこちないながらもそれまでに何人かのお客様からお褒めの言葉を頂くことがあったし、接客の腕は無くても一生懸命さと気持ちは伝わるものだと思っていたので気持ち悪いと言われたショックは大きかった。

「笑顔が気持ち悪い。」

全否定である。
これから夏休みが始まる、やってやるぜ!と気合いを入れていた7月すぐの時期。


そのお客様は去り際にこう言った。
「また東京で会うことになるかもしれないけれど、その時までにはしっかり笑いかけられるようになっていてね。約束よ。」

この「しっかり」のなんて重いことか。それでもこの言葉に奮起した。

「きっとこのお客様は当社にとって大切な顧客、又はお店を行きつくしているような方に違いない。次にお会いした時は絶対に満足させてみせる」と。

 

その日以降は毎回毎回の接客が、一人一人のお客様との会話が真剣勝負。まさに一期一会。

「今の笑顔は大丈夫か。言葉遣いは。お客様はご満足してくれているのか。」

接客中にこんなことばかり考えているのだからきっと険しい顔をしていただろう。今思えばどうかと思う。それでもその必死さが伝わったのか労いのお言葉を頂戴することが増えてきた。

「君は初々しさが残ってはいるけれど、頑張っているね。若いっていいね。」

お客様の言葉でようやく気がつく。ここはリゾート地。仕事をしにくる人なんていない。ただただ、リラックスをしに来ているのだと。


「ここは東京ではない。」

当たり前のことに気がつくと肩の力がすっと抜ける。こっちだってもっとリラックスした気分でいいんじゃないか。
ようやく自然な気持ちで接客ができるようになった。そしてこの頃にもう一つの事実がわかる。顧客データベースの使い方を教えてもらえるようになり、好奇心から例のお客様の情報を調べてびっくり。そのお客様は当日に初めてご予約をいただいた方であり、予約時の電話番号から推測すると住居も関東圏ではなさそうだったのである。東京に縁があるとは思えない。

「なんだ。ただただ、新人君を励ますためだけにあのような言葉をかけてくれたのか。」

しかし、このお客様の言葉が自信ときっかけを与えてくれたのは間違いない。いつかの再会を目標に一生懸命になっていたが直接の恩返しは難しそう。ならばその分をこれから出会うお客様に返していこうと決め、より熱く、より真剣に仕事に向かい合うようになったのでした。

 

リゾート地の次は実家が関東なこともあり東京に配属。東京は時間の流れ方もお客様もリゾートとは違い、戸惑うことばかりだったが、あの時の言葉を忘れずにがむしゃらに頑張っていた。

 

そんなある日のこと。
オープン前にお店前の掃除をしていると一人の女性に呼び止められる。

「あらあなた、あの時のお兄さんでしょ。覚えてらっしゃる?」

一瞬で分かった。あの時のお客様である。忘れられるわけがない。
自然とこぼれる笑顔。
たまたま東京に用事があり、たまたま通っただけとのこと。まったくの偶然である。こんな偶然があるから世の中は面白い。

 

軽く雑談をしてひとしきり盛り上がる。すると別れ際に最高の言葉をかけてくれた。

 

「あなた優しい笑顔ができるようになったじゃない。」

 

 

7月になると思い出す。嘘みたいな本当の話。人生はドラマチックの連続です。

こんな経験があるので頑張っている気持ちが伝わってくる人には優しくなれるし、どんなお店であれ店員さんには感謝の気持ちを伝えるように息子達にはうるさく言ってしまうのです。