反省、反省、猛省。
とある夕方。夫婦ともに早めに帰宅できたので私が部屋を片付け、妻が階下で洗濯機を操作していると階段から鈍い音が。
ゴロン、ゴロン、ゴロン、ゴロン。そして、びぃえぇーという泣き声。
レンタ@1歳が階段を転げ落ちるという惨事。
原因は階段のところにあるゲートが開いていたから。妻は私がレンタを見ている&すぐに閉めてくれるものと思いゲートを開けたまま洗濯物を抱えて階段を下りた。私は妻がゲートを閉めたと思っていたので安心して部屋の掃除をしていた。互いに「相手がやっているから大丈夫だろう」という思いの為に発生してしまった。お互いに反省点があるので責任転嫁せずに猛省しつつレンタの様子を見る。
大泣きはしているが目立った外傷はなし。嘔吐や痙攣もないので緊急性はなさそう。しかし、階段を10段以上も転げ落ちている。頭を強打している可能性も高い。念のため病院へ行くことに。性善説で楽観的な私と性悪説で悲観的な妻。このバランスがちょうどよいのだろう。二人でパニックになることも楽観しすぎることもない。
「元気に泣いているし大丈夫だろう」という私と、「脳に多大な損傷があったらどうしよう」と不安になる妻。互いにいい牽制になるので落ち着いて対処できる。
脳外科かつ小児科となるとかかりつけの小さなクリニックでは無理。もうひとつのかかりつけである総合病院の緊急外来に電話をしてみる。すると、17時を過ぎてしまったので担当医が不在であり対応できないという回答。まじか。大きな病院なのに。その代わりに消防庁の連絡先を教えてくれる。症状を伝えればその時に対応できる病院を案内してくれるとのこと。恥ずかしながらそんなシステム初めて知りました。
消防庁に連絡すれば安心だろう。そんな気軽な気持ちでいたが甘かった。
消防庁へ連絡し、対応してくれた職員さんに状況を説明。居住地を伝えると自動案内に切り替わる。近くにある緊急対応できる病院を3件コンピューターが教えてくれるらしい。凄いぞAI!
無機質な音声案内を聞きながら、病院の連絡先をメモしていく。この頃にはレンタも泣き止み、元気に動き回っていた。精神的に楽になる。
教えてもらった病院をメモると、安心できそうな病院が一つ、全く知らない病院が一つ、地元ではあまりいい話を聞かない病院が一つ。ならばとこの順番で電話をすることに。順番も何も、病院を教えてもらったことだし、すぐに病院へ行けるだろうと思っていた。しかし世の中そんなに甘くなかった。
一件目に電話。
「子どもが階段から落ちたので念のために診てもらいたいのですが。」
「お子さんはおいくつですか?1歳ですか!そこまで小さいとちょっと難しいのですが…。」
そう言われて、はいそうですか、と答えるわけがない。ここは日本。お上には逆らえまい。
「消防庁に連絡したところこちらの病院を紹介されました。やはり難しいのでしょうか。」
すると突然対応が変わる。
「ちょっと確認してみますのでこのままお待ちください。」
消防庁というマジックワードを出されたら無下にはできまい。待つこと数分。
「小児担当の脳外科医が不在の為にやはり対応できません。申し訳ありません。」
と丁重にお断りされる。きっと万が一のリスクと消防庁経由でのクレームを天秤にかけた上での結論なのだろう。私も企業人。経営判断には従うしかない。こちらにはまだカードが二枚ある。なんとかなるだろう。
続いて二件目に電話。
やはり、1歳児と告げた途端に断られるが「消防庁に案内された。」と告げるとまたもやしばしお待ちくださいモードに切り替わる。伝えるべき情報は伝えないと。こんなところで社会について学ぶ。先方会議の結果、「1歳児にはやはり対応できませんが、どうしても他の病院で対応できないようであればまた相談ください。」と保留回答をいただく。とりあえず補欠合格はした。当初はなんとかなるだろうと思っていたが、こんなにもたらい回し状態になるとは。ちょっと病院なめてました。東京でこれだもん。今回はレンタがとりあえず元気そうだからいいものの、これが深刻な状況だったらどうだったんだろう。救急車を手配しても受け入れ先が見つからないまま時間が過ぎていくのだろうか。他人事だったニュースが自分事になった瞬間である。
そして三件目に電話。
ここまでいくと半分諦め気味。世の中というものを知ってしまったから。するとここでまさかの神対応。もはやテンプレ化してしまった状況説明をすると…。
「1歳児の息子が~。消防庁に~。」
「わかりました。あと何分くらいで来られますか?15分くらいですか。ならばまだ担当者がいるので診れますよ。」
まさかの即決。しかも電話の応対者が。担当部署に回されることも、対応協議することもなく。ありがたい。
急いで車を出し、病院へ向かう。
池袋のど真ん中にある病院だったからか駐車場スペースは見つからず。とりあえず妻子を下ろし、駐車場を探して周囲をウロウロ。ようやく見つけたコインパーキングに車を停めて病院へ向かうと、診察を終えたレンタが元気に歓迎してくれる。あっという間に終わったよう。レンタは誰もいない病院のロビーを動き回って元気いっぱい。脳外科の先生に診てもらった結果、CTを撮るまでもなく大丈夫だろうとのこと。念のため、病院内で1時間くらいは様子を見て何もなければ帰ってよし。一晩経って何もなければ再診の心配もないので通常通り過ごして構わない(保育園も問題なし)と指示される。
ホッとひと安心。レンタに何もないとわかったので帰りの車中もポジティブな空気。互いに責任転嫁しあっての不毛な喧嘩は免れた。レンタの笑顔の為にも互いにただただ猛省。
常に目をかける。互いに声をかけあう。「やってくれているだろう。」と過度に期待しすぎない。
どれも基本的なことばかりだが、二人目の余裕をぶちかましすぎて基本をおろそかにしてしまっていた。
我が家の階段が半円の螺旋状およびレンタは階段をハイハイしながらも足から下りていくので、頭から急降下といった悲劇は避けられたのだろう。「ゴロゴロゴロ」ではなく「ゴロン、ゴロン」で良かった。惨事ではあるもののヒヤリハットの範疇。気をつけていかないと。
今回はヒヤリハットのおかげで病院問題や消防庁のシステムについて知ることができた。そして使うべきマジックワードも。消防庁に頼らずに自力で調べても限界があるし、時間によっては対応してくれない可能性もあっただろう。「消防庁に案内されました」の一言の破壊力はなかなかであった。公共サービスあなどりがたし。税金を納めている以上は謙虚に堂々と利用していきたい。