Call me Iqo.Pls!

月→土勤務の外資系風バリキャリ妻と元気いっぱいの2人の息子たち。2012年度、2017年度と2回育休を取得。育児ブログです。

レシピ見ながら料理したら叱られたけれどこれぞプロフェッショナル!を学んだ話。

プロはやっぱり凄いと感動した話。 

本社のエレベーターで昔お世話になったコックさんとばったり一緒になった。飲食業なので社内に料理人はたくさんいるものの、わが社も安定の縦割りジャパン。部署が違えばほぼ交流なし。
しかし、そのコックさんとはあるプロジェクトで一緒に仕事をしたことがあり、その時以来何かにつけて気にかけてくれている。縦社会ジャポンでもあるので、ベテランコックさんは神様の領域。話しかけられるまでは話しかけてはいけない時代もあったくらいに上下関係は厳しいのだが、その時の下っ端仕事ぶりを気に入ってもらい、雑談しあえる関係になっている。もちろん私は雑談中も一瞬たりとも気を緩めないように気をつけていはいるが。 

今年初めてではというくらいに久しぶりの再会だったので近況報告に話が弾む。妻や息子たちのことも気にかけてくれていたので「元気です。」と伝え、終始和やかにしていたのだが私の何気ない話しかけに急に顔つきが変わった。

「春先はコロナの影響で家にいる時間が増えたのでクックパッド見ながら料理に挑戦するようになりました。私でもレシピ見ながら頑張れば子ども達が満足してくれる味にはどうにかなりますね。」

この「レシピ」に鋭く反応される。

「レシピ?レシピ見ながら料理しているの?料理する時にレシピは見ちゃ駄目だよ。料理人はみんなレシピの形だけみて中身は見ていないんだから。」(今思えばこの「レシピは中身を見ずに形を見る」という表現にも深さを感じる。)

優しい言い方ながらも急にマジなトーンになったのでちょっとびびる。しかし、料理人にとって「レシピは宝」のイメージがある。そのレシピの存在を否定?腑に落ちない顔をしていたのだろう。そんな私に優しく解説してくれた。

「いいかいイクオくん。たとえばレシピに塩10gとあったとする。でもその食事をするのはいつ?昼?夕方?仕事帰り?休みの日?それだけでも『美味しい』と感じる塩分量は違うんだよ。
さらに言えば、その料理に使うキャベツはどこの産地?玉ねぎは?じゃがいもは?産地によって全く味は違うし、収穫時期がいつなのかによっても変わってくる。当然それらの野菜の組み合わせだけでも甘味や塩気はだいぶぶれてくる。俺らはそれらをあれこれ考えながら料理しているんだよ。レシピってのはそういうのを全て無視した、ただの文字と数字の羅列なんだから。
美味しいだけの料理ってのはちょっと覚えれば誰だってつくれる。でも感動するほど美味しい料理をつくるには頭を使わないと。俺らはイクオくん達みたいに大学を出ていないし、経営だなんだって難しい仕事はできないけれど、ちゃんと頭は使っているんだから。」

 

さあ鳴り響け、Progress。これぞプロフェッショナルな仕事の流儀。

心臓がバクバクした。料理人はそこまで考えているのかと。美味しんぼの世界はノンフィクションだったのだ。

ナツオ@小2が生まれた後の私の育休時代にそのコックさんが遊びに来てくれたことがあった。その時のお土産はコックさん自らお家でつくって冷凍してきてくれたハンバーグと付け合わせの野菜。
「奥さんが仕事から帰ってきたら家族で食べな。近所のスーパーと八百屋で買ったものだからお店の味とまではいかないけれども、絶対に美味しいから。イクオくんでも調理できるように冷凍してあるから、あとは解凍してフライパンで焼くだけだよ。」
そう言って焼き方や野菜の切り方までメモをしてくれていた。そのメモ通りに解凍してハンバーグを焼き、野菜を切って炒めて付け合わせたらもうびっくりするくらいに美味。海原雄山も「ムムムッ」と唸るくらい。このぺったんこのハンバーグのどこに隠れていた?ってくらいに肉汁が溢れる。八百屋で買っただけと言っていた野菜の甘味も半端ない。キャベツってこんなに甘くてジューシーな野菜だったっけ。夫婦で「美味しい!」と発した後は食べ終わるまでひたすら無言。

今回のレシピ発言でその時の様子をはっきりと思い出した。あの日以来料理人を心から尊敬するようになっていたが、やっぱり尊い。

しかしレシピを否定したコックさんもお菓子は別のよう。

「ケーキやクッキーといったお菓子は製品だからね。一度にたくさんつくるお菓子はレシピに忠実じゃないといけないよ。面倒くさくても毎回量ってね。」

料理はオーダーメードの作品でお菓子は大量生産の製品。これまた深いお話。エレベーターホールを出ての休憩所でひたすら聞き入っていた。

レシピがきっかけで話が思わぬ方向に転がっていったが、結局のところレシピを否定しているのではなく、
「なんだって、うわべだけでできた気になっちゃだめだよ。できてようやく入り口に立てるようになったにすぎないんだから。そこから先は経験と頭をフル回転させていかないと進めないよ。」
ということなんだと思う。

仕事だけに限らずあらゆる事柄に通ずる大切な考えを教えてもらった。これぞ守破離の精神。
しかし困った。せっかく教わった大切なこと。息子たちが大きくなった時にちゃんと伝えられる自信がない。レシピの形を見られるようになる前にまずはレシピ通りに誠実にお菓子をつくれるようになることから始めます。