タケノコを食べるたびにいつも疑問を抱いていた。
「これは本当にタケノコなのか。私は今タケノコを食べていると心から言えるのか。」と。
なぜだろう。きっと頭の中にずっと昔に読んだ漫画のエピソードが残っていたからだと思う。
食に関する知識はミスター味っ子と美味しんぼで学んだ私。この二つを押さえれば大衆食堂の一品から至高の逸品までなんでもござれである。そしてタケノコに関するエピソードと言えばもちろんあれである。美味しんぼのたぶん49巻に掲載されているタケノコの大地焼き。山ごと豪快に焼いてタケノコを蒸し焼きにするクレイジーすぎる話。さすがに山に放火する勇気も狂気もないので大地焼きはできないが、いつかタケノコ掘りをしてそのまま姿焼きや刺身で食べたいと20年くらいずっと思っていた。きっとあれこそが本当のタケノコの味なんだと信じて。
そんな私の心中を察してかタケノコ掘りの機会をいただいた。学生時代に家庭教師をしていた教え子のご両親に誘っていただいたのである。教え子とは縁遠くなってもご家族にはなにかとお世話になっており、ナツオ@5歳の誕生をきっかけにして10年ぶりに交流が始まった不思議な縁。大人には構えてしまう生意気盛りなナツオだが、カッコいい大人は別。タケノコ掘りの前に大きな公園でピクニックランチをしたのだが、その時にプレゼントとして凧をいただいた。しかもナツオが大好きな仮面ライダービルド!それだけでもテンションがあがるが今年の正月からずっと「凧揚げしたい!」と言っていたナツオ。ダイソーで買ってもいいのだがあいにくのコンクリートジャングルな東京。揚げる場所がないので諦めていた。そんな夢が叶ったのだからお昼ご飯そっちのけで凧揚げに夢中。初めての凧揚げに苦戦するナツオだが、パパさん(家庭教師時代の名残で今でもパパさん、ママさんと呼ばせてもらっている)があっけなく揚げる。もうその瞬間にナツオにとってパパさんはスター。あっという間になついてしまう。おかげで私は落ち着いて楽しくて美味しい昼食を楽しめた。もうひたすらパパさんとナツオは凧揚げの為に走り回っている。思うにパパさんが子ども子ども扱いしないのがナツオの男心をくすぐるのだろう。「なっちゃん」や「なつおくん」ではなく常に「ナツオ!」と呼び掛けている。義父よりもなついている気がする。カッコいい大人には見習うところが多い。勉強になります。ナツオのお友だちにもそのように接していきたい。
無限に楽しめそうな凧揚げだったが今日のメインはタケノコ掘り。適当に切り上げて安全にタケノコ掘りができる場所に連れていってもらう。私も初めてのタケノコ掘り。全くの未知の世界なのでワクワクが止まらない。
もうすっかりリーダーと子分なパパさんとナツオ。パパさんの指示通りにかわいくついていく。
しかしタケノコを見つけるのは一苦労。たくさんあるのだがちょっと大きめばかり。もちろん美味しく食べられるのだが、小さければ小さいほど美味しいとのこと。そんなときにナツオが役立った。目線が小さいからか、土からちょっと顔を出しているだけのタケノコをたくさん見つけてくれる。リーダーに誉められてナツオもまんざらではなさそう。
見つけたらシャベルで掘り出す作業。慎重にやりつつもあくまでも自分達用なので雑でもOK。アウトドアは苦手でも興味だけはある妻が楽しそうにナツオと掘り出している。妻曰く「収穫は目の前に結果があるのでモチベーションがあがり楽しい。」とのこと。なるほど。合理的な動機付けである。
タケノコを取り出したらいよいよあれである。姿焼き!の前にまずはお刺身でいただく。
わさびと醤油で味わう。朝イチではないので多少のえぐみはあったが、なるほどこれがタケノコのお刺身か!初めて食べる食感、味。またひとつ大人になれた。そしてえぐみという感覚も初めて知った。この喉の痛みがえぐみなのか。
そして今度は姿焼き。その場でアルミホイルに包んで豪快に焼く。
準備万端なお二人にはひたすら感謝しかない。おかげで息子たちに幸せな体験を提供できる。タケノコが焼き上がるまでナツオはひたすら探検して遊んでいた。近所の公園は砂利とゴムばかりで土が非常に少ない。それだけにひたすら土遊びをして楽しんでいた。
そして完成したタケノコの姿焼き。ほくほくしていて美味しい!これでようやく美味しんぼの世界に追い付いた。もう大大大満足である。
お土産に大量にタケノコをいただき帰路へ。
スーツケースにたくさんのタケノコ。重さの分だけ幸せが詰まっていると言い聞かせて頑張って帰宅。妻子は電車の中でひたすら爆睡していた。
そして帰宅してからタケノコの洗礼を浴びる。と、ともにタケノコへの感謝の気持ちが芽生える。
タケノコって食べるまでにこんなにも苦労を伴うのね。日本人の食への関心の高さに感動すら覚える。まさかこんなにも手間がかかっていたなんて。
まずは玄関でひたすら皮を剥ぐ。もうひたすら。ひたすら。ひたすら。あんなにも立派なタケノコも皮を剥ぐとこんなにも小さくなってしまうなんて。そしてごみ袋がこんなにもパンパンになるなんて。
ひたすら、ひたすら皮をはいだら今度はアクぬきが待っている。大きなお鍋二つ分に負けないくらいにお米をといでとぎ汁と生米でひたすら煮込む。恥ずかしながらここまでの手間をかけてようやくタケノコを美味しく食べられるということを知った私。おかげ様でこれからは今まで以上にタケノコを美味しく味わえそう。タケノコを探し、掘り、皮を剥ぎ、アクを抜く。ここまでの作業を経てようやく食材になるなんて。アク抜きまでずっと見ていたナツオにもその心は芽生えたよう。食べることへの感謝の気持ちをタケノコ掘りを通して学んでくれたならば何より。
翌日はいただいたタケノコを利用したタケノコご飯。とっても美味。ナツオは3杯もお代わりしていた。「タケノコ美味しいね。僕、タケノコ好きだったけれど更に好きになっちゃたよ。」と言ってくれる。おかげでひたすらタケノコご飯祭り。給食の昼食以外は朝、夜ともに3日連続でタケノコご飯。美味しいからOK。それに自分達で採った、下ごしらえしたと思うと更に美味しい。体験としてのタケノコ掘りはもちろんだが、その後の作業まで含めて体験できたので非常に良かった。大きく言えばこれも食育なのだろう。旬を味わい、生産者と調理者に感謝する。大切にして欲しい感覚。旬を筍で学ぶのもまた何かの縁か。
いただいたタケノコは水煮した状態で保育園仲間にお裾分け。どの家庭でも非常に好評。「なっちゃんが採ってきたタケノコだから美味しいね。」なんて子ども達が喜んで食べているよう。こちらも嬉しくなる報告をいただく。そしてタケノコ掘りに感動した妻とナツオは来年に向けて会話をしている。「来年は小学校始まって慌ただしいからGWにお邪魔させてもらおうか?それとも小学校休んで行っちゃう?」なんて楽しく会話している。よっぽど楽しかったもよう。
すべてはパパさん、ママさんの善意によるもの。ご縁を大切にしてレンタ@1才が楽しめるまで末長くお付き合いさせていただければ幸いです。これだけ喜んでいる妻子を見ていると、特に出不精な妻が積極的になっている様子を見ると、本当にお声かけいただいて良かったです。ただただ感謝の言葉しかありません。